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徳島地方裁判所 昭和58年(行ウ)1号 判決

徳島県板野郡北島町江尻字松の本二四番地の三

原告

有限会社主婦の北島店

右代表者代表取締役

宮崎幸夫

右訴訟代理人弁護士

藤川健

徳島県鳴門市南浜字東浜三九番地の三

被告

鳴門税務署長

河内章

右指定代理人

武田正彦

西浦久子

曽根田一雄

脇征男

福本加克

染田新

木本裕

西谷正

佐藤重義

濱口静治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和五四年一〇月一日から同五五年九月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について昭和五七年一月一八日付けでした再更正処分(以下「本件再更正処分」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は各種商品の小売を業とする会社であるが、昭和五五年一一月二九日、原告の本件事業年度分の法人税につき、所得金額を三七五万六一九八円、法人税額を一〇五万一六〇〇円とする青色申告書による確定申告をし、右申告納税額を納付した。

2  これに対して、被告は別表(一)「課税等経過表」記載の経過を経て、昭和五七年一月一八日、所得金額を四八四二万六一九八円、法人税額を一九四四万一四〇〇円とする本件再更正処分をした。

原告は同年三月一一日、これを不服として高松国税不服審判所長に審査請求をしたが、同審判所長は同年一二月一七日本件再更正処分の一部のみを取り消し、所得金額を四五〇七万四一九八円、法人税額を一七一八万九六〇〇円とする旨の裁決をし、その裁決書謄本は同月一八日原告に送達された。

3  しかしながら、本件再更正処分(ただし、所得金額及び法人税額は裁決による一部取消し後のもの。以下同じ。)は次の理由により違法である。

(一) 原告は本件事業年度分の法人税確定申告において、期間中に退職した従業員・訴外森本照子、同岸みどりの両名に支払つた退職金各二二五〇万円、合計四五〇〇万円を損金(営業費の一部)として計上したところ、被告は、右退職金の算定及び支給の根拠が不自然かつ不合理であるとして、被告において独自に右両名に対する退職金適正額を各一八四万一〇〇〇円、合計三六八万二〇〇〇円と算定し、右退職金のうちこの限度においてのみの損金計上を認め、法人税法一三二条一項により残余の四一三一万八〇〇〇円の損金計上を否認し、これ(ただし、一部を除く。)を申告所得金額三七五万六一九八円に加算して原告の本件事業年度分の所得金額を四五〇七万四一九八円と認定した。

(二) しかしながら、被告の右措置は森本、岸両名の原告における特殊な地位や原告に対する特別な功績を無視したものであつて合理性を欠いている。

すなわち、原告は昭和四一年一〇月一一日、宮崎幸夫、橋本重夫の両名によりスーパーマーケツト営業を事業目的として設立されたものであるが、当時宮崎、橋本両名は、原告の最初の店舗である主婦の北島店(徳島県板野郡北島町江尻字松の本二四番地三所在。以下「本件店舗」という。)を足がかりとして板野郡一円にいくつものスーパーマーケツト・チエーン店をおき広般な営業活動を展開する計画を持つていた。このため、本件店舗は右スーパーマーケツト・チエーン店計画の第一号店として、かつまた、その活動の拠点として重要な意味を持つものであつたが、宮崎、橋本両名は他に仕事を抱えていたうえ、チエーン店計画展開のための準備に追われ、自ら店舗経営に従事することができなかつた。そこで、衣料品販売に経験のある森本と、食料品販売に経験のある岸の両名を他の店から引き抜いてきて本件店舗の経営を委ねることとしたのであり、両名は原告の役員ではなかつたが、実質上役員と同じ立場にある者として、本件店舗の経営全般を取り仕切ることが期待されていたのである。宮崎、橋本両名は、このような重大な職務にたずさわる森本、岸両名に対する励ましと、将来その功績に報いるという意味をも込めて、本件店舗の経営を託するに当り、両名との間で、本件店舗はスーパーマーケツトとしては手狭であり、いずれは北島町内に本格的なスーパーマーケツトを開店し、その暁には本件店舗の土地建物は売却するというのが当初からの計画であつたことから、その際には、売却益のほとんどを両名に退職金として交付するという約束を取り交した。

こうして森本、岸両名は本件店舗の開店当初から、宮崎、橋本両名に代る営業責任者として骨身を惜しまず働き、原告の経営維持に多大の功績を残したのであり、このような森本、岸両名の努力の結果、本件店舗は昭和四九年九月、同系列の有限会社マルハチエーン北島店(以下「マルハ北島店」という。)が北島町内に本格的なスーパーマーケツトを開店したのに伴い、初期の使命を全うして営業を終らせることができたわけである。

そして、原告は昭和五五年三月に本件店舗の土地建物を売却し四七二四万一一五一円の売却益を得たので、森本、岸両名の退職手続をとるとともに、当初の約束に従い、右売却益のほとんどである四五〇〇万円(一人につき二二五〇万円)を退職金として支給した。以上のような経緯に鑑みれば、原告の森本、岸両名に対する前記退職金の支給は十分に合理的に理由を有しており、被告の本件再更正処分は誤つた事実判断をもとにしたものであるから違法である。

よつて原告は被告に対し本件再更正処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3の(一)の事実は退職金が現実に支払われたか否かの点を除いて認める。

同(二)の事実のうち、原告が昭和四一年一〇月一一日、宮崎幸夫、橋本重夫の両名によりスーパーマーケツト営業を事業目的として設立されたこと、森本照子、岸みどりの両名が原告の従業員であつたこと、マルハ北島店の店舗開店後本件店舗が閉鎖され、原告が本件店舗の土地建物を売却し、原告主張のとおりの売却益を得たこと、その後森本、岸両名について退職の手続がとられたことは認める。右両名が原告に就職した事情及び両名の本件店舗における活動状況は不知。その余は否認する。

三  被告の主張

1  原告は昭和五五年一一月二九日、本件事業年度分の法人税につき、所得金額を三七五万六一九八円とする確定申告をした。しかしながら、原告は、本件事業年度中の昭和五五年三月に本格店舗の土地建物を売却し、四七二四万一一五一円の売却益を得ているのであり、それにもかかわらず、申告所得金額が右のとおり少額であつたのは、右売却益のほとんどに当たる四五〇〇万円を従業員であつた森本、岸両名に退職金として支給したとする会計処理がされたからであつた。

2  ところで、右退職金の支給は次のとおり極めて不合理かつ不自然なものである。

(一) 原告にはもともと従業員に対する退職金の支給について就業規則等による定めがないし、他の従業員に対して退職金を支給した例もない。それにもかかわらず、森本、岸両名に対してだけ会計処理上退職金が支給されたことになつている。

(二) 森本、岸両名とも退職当時原告から支給されていた給与月額は六万円、勤続年数は一四年にすぎないのに、退職金額は二二五〇万円(給料の三七五か月分)であつて、一般水準と対比して余りに過大である。しかも、その合計四五〇〇万円の財源には、原告の基本財産である本件店舗の土地建物を売却して得た利益のほとんどを当てたというのであるが、事実とすれば、余りにも経済的合理性を度外視した措置である。

(三) 原告は、森本、岸両名が実質上原告の役員と同じ立場にあり、本件店舗の経営上特別な功績があつたと主張しているが、本件店舗の営業実績は良い時で僅かな利益が出たという程度であり、両名に原告がいうほどの功績があつた事跡は認められない。

(四) 原告は、右退職金は経営委託の当初からの約束に基づいて支給したものであるというが、右約束に関して作成された書面と称される昭和四二年一一月一日付け「約定書」は原告の代表者から森本、岸両名にあてたものとなつており、双方間の取決めの形式がとられていない。しかも、これには「店舗を売却したる場合は、その所得のほとんどを両君に退職金として支給することを約定する。」とのあいまいな記載があるだけであり、その紙質等に照らすと、右「約定書」は日付けの日よりも後に作成された疑いが濃厚である。のみならず、経営委託の当初において、右のような約定をすること自体、企業の経済性を無視するものであつて、極めて異常なことである。

(五) 森本、岸両名に支給したとされる退職金は、原告の会計上、一旦、小切手で支払われたあと、原告が改めて両名からその全額を仮受金の名目で収受した旨の処理がされている。そして、原告は、その後、右仮受金を両名からの借入金に振り替える旨の会計処理をしたうえ、これに相当する金員を原告の代表者である橋本重夫とその同族関係者及び宮崎幸夫らによつて設立されたマルハ北島店に事業資金として貸し付けている。このように、右退職金については原告による現実の金銭の出捐はなく、原告の会計帳簿及び預金口座元帳並びに森本、岸各人名義の預金口座元帳にそれに相当する小切手及び振替による出入金の記録が残されているにすぎないのであり、右記録を残すについては原告は取引銀行に要請してその協力を受けている。

以上の諸点に照らすと、原告の森本、岸両名に対する前記退職金の支給は極めて不合理かつ不自然であり、その事実の存在すら疑わしい。

3  原告は、宮崎、橋本両名がその資本金のすべてを出資している会社であり、法人税法上の同族会社(同法二条一〇号、一四号)に該当するところ、被告は、右のような事情に鑑み、本件再更正処分において法人税法一三二条一項により右退職金のうち適正と認められる金額の限度を超える部分の損金計上を否認したものであるが、その適正額は次の方法で算定した。

すなわち、被告はまず、高松国税局管内における原告と同種、同規模の法人の、その従業員に対する最終給与月額に対する退職金の支給率を調査し、その平均値を原告の森本、岸両名に対する退職金に適用することとした。右両名の原告における勤続年数は昭和四一年から同五五年までの一四年であり、この場合の右調査結果に基づく退職金支給率の平均値は別表(二)「退職給与支給率調査表」記載のとおり一〇・六である。次に、右両名の原告における最終給与月額はそれぞれ六万円であるが、両名は昭和四七年一一月から、原告とその関連会社に同時に勤務していることとの関係で、右給与月額は一企業に専属的に勤務する場合より低くなつていると推察されるので、原告における最終給与月額六万円に、同じ時期に関連会社から支給された給与月額一一万円を加えた一七万円を基礎とし、これに右平均支給率一〇・六を乗じた一八〇万二〇〇〇円から、関連会社を同時に退職したとした場合、この会社から支給される退職金の額、すなわち、関連会社における給与月額一一万円に勤続年数七年に見合う前記調査結果に基づく退職金支給率の平均値五・一(前記調査表参照。)を乗じた五六万一〇〇〇円を差し引いた残額一二四万一〇〇〇円を一人当りの適正な退職金額として割り出した。そして、その二人分に相当する二四八万二〇〇〇円の限度での損金計上を容認し、両名に支給したとされる退職金四五〇〇万円のうちこれを超える四二五一万八〇〇〇円の損金計上を否認することにしたわけである。

4  ところで、原告の申告所得金額は三七五万六一九八円であり、これに右損金計上否認分を加えると、原告の所得金額は四六二七万四一九八円、これに対する法人税額は一七六六万九六〇〇円である。これに対し、本件再更正処分において被告が認定した退職金としての適正額は合計三六八万二〇〇〇円、所得金額は四五〇七万四一九八円、これに対する法人税額は一七一八万九六〇〇円であつて、いずれも右当該金額の範囲内にあるから、本件再更正処分は適法である。

四  原告の反論

1  原告における森本、岸両名の最終給与月額が六万円であり、割合に低く定められていたのは役員やそれに準ずる者の給与額は低く抑えるという原告の方針によるものであつた。原告は徳島県板野郡松茂町広島にも店舗の土地建物を所有しており、本件店舗の土地建物が唯一の財産というわけではなかつた。

2  本件店舗はスーパーマケツトとしては手狭であつたことから、もともと多大の営業利益を挙げることは期待されていなかつた。森本、岸両名に期待されていたのは、北島町内に原告系列の本格的店舗が開店するまで本件店舗の経営を維持し、市場を確保するということにあり、両名はこの役割を十分に果たした。原告のいう功績とはこのような意味合いのものである。

3  原告が森本、岸両名から退職金に相当する金銭を借り入れたのは、当時、両名が直ぐにこれを使用する予定はないので、原告において運用してもらつて差支えないということであつたからである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告の業種、原告による本件事業年度分法人税の確定申告及び申告納税額の納付についての請求原因1の事実、並びに本件再更正処分がされるまでの経過、これに対する原告の審査請求と高松国税不服審判所長による裁決及び裁決書謄本の送達についての同2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  そして、原告が、本件事業年度分の法人税確定申告において、期間中に退職した従業員・訴外森本照子、同岸みどりの両名に支払つたとする退職金各二二五〇万円、合計四五〇〇万円を損金(営業費の一部)として計上したところ、被告が、本件再更正処分において、右両名に対する退職金適正額を各一八四万一〇〇〇円、合計三六八万二〇〇〇円と算定し、右退職金のうちこの限度においてのみの損金計上を認め、法人税法一三二条一項により残余の四一三一万八〇〇〇円(ただし、一部を除く。)の損金計上を否認し、これを申告所得金額三七五万六一九八円に加算して原告の本件事業年度分の所得金額を四五〇七万四一九八円と認定したこともまた当事者間に争いがないので、右残余額の損金計上を否認した被告の措置が適法なものといえるか否かについて検討する。

1  いずれも成立に争いのない乙第一号証、第二ないし第八号証(第六六ないし第七一号証)、第一六、第二一、第四〇、第四五号証、第五八号証の一、二、証人森本照子、同岸みどりの各証言及び原告代表者宮崎幸夫、同橋本重夫の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は昭和四一年一〇月一一日、スーパーマーケツト方式の店舗を設けて衣料、雑貨、食品等、各種商品の小売販売をすることを目的として、宮崎幸夫、橋本重夫の両名によつて設立された会社であり、その資本金一〇〇万円は両名が五〇万円ずつ出資したものであること、設立後、原告は、事業の手はじめとして、前所有者による経営が行き詰まり倒産の状態にあつたスーパーマーケツト方式の本件店舗の土地建物を一〇五〇万円で買収し(なお、その資金は右土地建物を担保に供して全額銀行借入れにより賄つた。)、ここにスーパーマーケツト「主婦の北島店」を開設したこと、しかし、宮崎、橋本両名は、当時、他にも自己の経営する店舗を持つていたほか、本件店舗を足がかりとして、徳島県板野郡一円にスーパーマーケツトのチエーン店をおく計画を有しており、その計画実現のために奔走しなければならないほど、多忙であつたため本件店舗の経営にのみ専念することができなかつたこと、そこで、両名は、宮崎の実姉で衣料品類の商いに経験のある森本照子と、食品類の商いに経験のある岸みどりの両名を雇い入れて本件店舗での日常の営業活動を一任することにしたのであり、両名は、宮崎、橋本両名の指導、助言のもとに、商品の仕入れ、販売から従業員の採用、賃金の決定に至るまで、本件店舗での業務のすべてを取り仕切つたこと、その後、本件店舗での営業は、昭和四七年一一月に宮崎、橋本の両名やその同族関係者によつて設立されたマルハ北島店が五、六〇メートル距てた場所に規模の大きい別の店舗を開設したのに伴い廃止されたのであるが、開店から廃止までの間、本件店舗では、年によつて黒字のこともあり赤字のこともあつて、総じて大幅な赤字を出さない程度の経営が続けられたこと、本件店舗での営業が廃止された後は、森本、岸両名は、その残務処理や原告が本格店舗の建物を利用してはじめた貸倉庫の業務に従事する傍ら、マルハ北島店での商品の仕入れ、販売等にも携わるようになり、その後、原告は昭和五五年三月一二日、訴外稲次正敏に対し本件店舗の土地建物を売り渡したが、そのころ、森本、岸両名について原告からの退職の手続がとられたこと、そして、原告は、会計記録上、右土地建物の売却に伴い本件事業年度において四七二四万一一五一円の特別利益を計上する一方、このうち森本、岸両名に各二二五〇万円、合計四五〇〇万円の退職金を支払つた旨の措置をとつたこと、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

2  ところで、原告は、右退職金は森本、岸両名との間の雇入れの際の当初からの約束に従つて支給したものである、と主張する。しかしながら、前認定の事実によれば、右両名は原告の代表者から、本件店舗での営業につき商品の仕入れ、販売等、業務処理の一切を委されていたとはいえ、原告に何ほどかの出資をしていたわけではないし、営業上欠損金が生じた場合、その全部若しくは一部について責を負う立場にもなかつたのである。してみると、両名の原告における地位は、本件店舗での営業責任者、いわゆる「店長」格のものであつたとみるのが相当であり、原告から相当額の給与と、退職した場合にはその地位、勤続期間等に相応する額の退職金の給付を受けることがあるにしても、営業利益の配当や残余財産の分配に与り得るものでないことは明らかである。また、本件店舗の土地建物は原告がその事業開始に当り銀行からの借入金によつて取得したものであり、その売却処分による特別利益はもつぱら取得後売却までの間に生じた地価の値上がりによつて生じたものであることは容易に推認できるところであつて、森本、岸両名の原告に対する功績とは関係のないものである。そのほか、両名が本件店舗での業務に専属的に従事したのは六年余の期間にすぎず、原告を退職する手続がとられた後においてもマルハ北島店で同種の業務に従事していることなど、前認定の事業関係に照らすと、一人につき二二五〇万円、合計四五〇〇万円という金額は両名に対する退職金というには不相当に高額なものであつて、原告が主張する両名との間の約束はその趣旨自体極めて不合理かつ不自然なものといわざるを得ず、原告が右約束の存在を明らかにする証拠として提出する甲第六号証中の約定書の記載並びにこれに副う証人森本照子、同岸みどりの各証言及び原告代表者宮崎幸夫、同橋本重夫の各本人尋問の結果は信用するに足りないものである。

3  のみならず、いずれも成立に争いのない乙第三二、第三八、第五五、第五六、第七四、第七五号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第六五号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告にはその従業員に対する退職金の支給に関して就業規則等による定めはなく、本件店舗で営業が行われている間、七、八名の従業員がいたが、森本、岸両名以外で退職の際退職金の支給を受けた者はないこと、原告の会計記録上では、森本、岸両名に対する合計四五〇〇万円の退職金は一旦支払われたあと、原告が改めて両名からその全額を仮受金の名目で収受し、その後、これを両名からの借入金に振り替えたうえ、これに相当する金員をマルハ北島店に事業資金として貸し付けたこととされており、右退職金に相当する金銭が両名に対し現実に支払われた事実はないことが認められる。これに、前述したところを併せると、原告の会計記録上、損金に計上された森本、岸両名に対する四五〇〇万円の退職金は現実に両名に支給されたものではなく、原告が本件店舗の土地建物を売却したことによつて発生した所得の所在を隠匿するため会計記録上、これを給付したもののように仮装した疑いが極めて濃厚である。

4  そして、仮にそうでないとしても、四五〇〇万円という金額は森本、岸両名に対する退職金としては法外に高額であつて、その支給が極めて不合理かつ不自然なものであることは前述したとおりであり、前認定の事実によれば、原告が宮崎、橋本両名のみの出資から成る会社で、法人税法一三二条一項にいう「同族会社」に該当することは明らかであつて、右退職金の支給はこれをそのまま容認すると原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となるから、被告はその損金計上を右法案により否認することができるところ、いずれも成立に争いのない甲第一、第五、第七号証、乙第二四号証、第二五号証の一ないし二六並びに弁論の全趣旨によれば、被告は、その主張のとおりの方法で、原告において森本、岸両名に対し退職金を支給するとした場合の適正額を最終的に一人について一八四万一〇〇〇円、合計三六八万二〇〇〇円と算定し、前記退職金のうち右算定額を超える金額の範囲内においてその損金計上を否認して本件再更正処分をしたものであることが認められる。右退職金適正額の算定においては、被告は、原告と同種、同規模の法人における従業員全体に通じる退職金支給率の平均値を採用しているが、森本、岸両名は前述したとおり本件店舗における営業の責任者の地位にあつたとみることができるのであり、この点が考慮されていない点で、右退職金適正額は低きにすぎないか、との懸念を生じないではない。しかしながら、これを実際の計算において考慮することは技術的に極めて困難なことであるし、被告もこのことを配慮してか、前述のとおり損金計上否認を可能な金額の限度より内輪の金額に止め、結果的に原告に有利な取扱いをしている。

してみると、右退職金適正額の算定方法は一応の合理性を有しているということができ、他にこれを不合理なものとして排斥すべき事由も見出せない本件においては、被告の右損金計上の否認、ひいてはこれに基づいた本件再更正処分は適法であるというべきである。

三  よつて、原告の本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主分のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 以呂兎義雄 裁判官 鶴岡稔彦)

別表(一)

課税等経過表

〈省略〉

注 加算税額欄の(重)表示は重加算税を、(過少)表示は過少申告加算税を示す。

別表(二)

退職給与支給率調査表

〈省略〉

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